冷房や暖房のエネルギーを抑制するために、熱を主体とした高断熱・高気密設計が普及しつつあります。しかし、湿気に対する適切な設計・施工がなされていないと、断熱材の内部や木質建材などに結露が発生し、カビや木材の腐朽など悪影響をもたらします。これらは建物の寿命を縮めるだけではなく、居住者の健康被害にもつながる恐れがあります。「良い建物を建て、健康に、長い間使用する」ためには、熱と湿気の両面を意識した設計が必要ですが、これらの挙動は非定常性が高く、コンピュータシミュレーションの活用がポイントとなります。吉永研では、ドイツで開発された熱・湿気非定常シミュレーションプログラム「WUFI」の日本語環境整備、パッシブハウス認証住宅設計への活用などに取り組んでいます。

・WUFI PlusにSketchUpで作成した建物モデルを取り込み、簡単な計算を行うまでのチュートリアルを、ダウンロードページから提供しています。(2018年度卒論成果品)
・吉永研で翻訳したWUFI Plusの日本語データファイルの入手は日本代理店イーアイ(http://www.wufi.jp/contact/)に直接お問い合わせください。WUFIの次期バージョンアップでデフォルト装備される予定です。(2021.5)

夏型結露と冬型結露をともに回避するため、従来用いられてきた住宅用気密シート(PEフィルム)に変わり、可変透湿シートが広がってきています。吉永研ではGINTRONIC社製 GraviTest 6400という透湿抵抗測定機器を用いて、様々な可変透湿シートの特性を詳細に分析しています。

・建築技術 No.900 2025.03春号(pp.58-59)に、「夏型結露と可変透湿層」記事を執筆しました。

WUFI Plus/Passiveの日本語翻訳

吉永研では、ドイツのフラウンホーファーIBP(建築物理研究所)で開発された、熱・湿気非定常シミュレーションプログラム「WUFI」のシリーズのうち、住宅を一軒まるごとシミュレーションできる「WUFI Plus/Paswive」の日本語翻訳を卒業研究の一環として取り組んできました。機能が多く、英語の表示ではなかなかとっつき難い部分がありましたが、日本人でもスムーズに操作できるようになりました。

WUFI Plus/Passiveの日本向けチュートリアル作成

画面が日本語になっても、ヘルプや操作方法についての説明がないと、やはり初心者には辛いものです。
吉永研では、2018年度にWUFI Plusの初心者向けチュートリアルを作成しました。日本語で、SketchUpで作成した建物3DモデルをWUFI Plusに取り込み、一通りの計算結果が得られるところまで、簡潔に説明しています。
2019年度は、WUFI Passiveを用いた、パッシブハウス認証のための検討方法をチュートリアル化し、また、PHPP(パッシブハウス認証ツール)やTRNSYSとの計算結果の比較検証も行いました。

可変透湿シートの性能分析

吉永研が所有するGINTRONIC社製 GraviTest 6400-50は、薄膜から50mm厚までの材料の透湿度を高精度に測定するカップ法を用いた透湿性能の測定装置です。ISO 2528をはじめ多くの評価基準に適合しています。これまでに、市販されている複数の可変透湿シートや低透湿シートの相対湿度に応じた透湿抵抗値を測定し、論文として発表しています。
2020年度には実際に模擬壁を作って夏型結露の再現実験をし、可変透湿シートの大きな夏型結露防止効果を確認しました。