植物は強い日差しや高温の空気により枯死することを防ぐため、根から吸い上げた水分を蒸発・蒸散させて潜熱による自己冷却をしています。また、植物が落す陰は建物の窓や壁面の日射吸収を抑制してくれます。そのため、建築物の屋上や壁面を緑化することは、特に夏期におけるヒートアイランド現象の緩和や街路空間の熱環境改善につながります。過去約10年間にわたり、吉永研では、クズ、ヘデラ類、つる性植物各種など(以上、壁面緑化)、ヒメイワダレソウ、イワダレソウ、セダム類など(以上、屋上緑化)、多くの植物の熱的特性を研究してきました。

健康な植栽は建築デザインの上でも魅力的な素材ですが、そもそも植物の生育が困難な環境を強引に緑化したり、灌水や維持管理計画が不十分だったりといった、残念な緑化建築が増えてきているのも事実です。近年の吉永研では、「植物は生き物」と捉え、適切な維持管理について調査研究を行うとともに、合理的な灌水方法の研究をしています。

屋上緑化・壁面緑化の維持管理の実態調査

名古屋市及びその近隣における、屋上緑化・壁面緑化を導入した建物に対し、ヒアリングおよびアンケート調査を行い、維持管理とトラブルの情報を収集しています。トラブルの多くは、灌水不足による枯死・灌水過多による根腐れ・病気などで、適切な灌水手法の確立が必要であることがわかってきました。特に近年は、温暖化の影響により夏期の気候が不安定で、高温乾燥が続くかと思うと、台風や多雨が連続したりします。機械的に灌水手順を決めるのではなく、合理的なシステムに落とし込むことが求められています。

合理的な自動灌水装置の開発・評価

屋上緑化の自動灌水装置は、長い間スプリンクラーとドリップチューブの二種類が主流でした。スプリンクラーは下方の散水が苦手で、空中に散布するために水の消費量が多くなりがちです。ドリップチューブは狙った範囲への灌水はできますが、チューブの取回しが長くなったり、メンテナンス時に刈込機が使用できないなどの短所があります。近年では、吹上型加圧散水チューブといった、少し高く吹き上げる散水設備も利用されています。それぞれの利点を生かすとともに、緑化エリア全体を、均等に湿潤にでき、かつ維持管理のしやすい潅水装置を研究しています。